PROJECT 特集

CTL製作の「純銅製ヒートシンク」がアメリカのキャスティングコンテストで優勝 AI分野での活用見込む

 

米国・カリフォルニア州に拠点を持つ「キャステムテクノロジーラボラトリーズ(CTL)」が製作した「Pure Copper Heat Sink」が、アメリカのICI(Investment Casting Institute)の鋳造コンテストで総合優勝を獲得し、機関誌に掲載されました。

Current Issue of INCAST Magazine - INVESTMENT CASTING INSTITUTE

 

本製品は微細なピンを備えた純銅製ヒートシンクで、近年急速に発展を遂げるAI分野での活用を見込んでいます。受賞作の解説や、製作にあたっての苦労、今後の展望などをご紹介します。

ICIキャスティングコンテストとは

ICI(Investment Casting Institute)のテクニカルカンファレンス&エキスポは、精密鋳造業界の専門家が参加する北米最大の集いです。ICIキャスティングコンテストは、事前審査を経たファイナリストの中から、テクニカルカンファレンス&エキスポの参加者投票によって優勝作品が決まります。選考基準は以下の通りです。

・精密鋳造プロセスを最適化した部品
・複数の部品のアッセンブリを置き換える部品
・コストを削減する部品
・製品の信頼性と性能を向上させる部品
・お客様の利益となる部品

今回のCTLの作品は、ファイナリストの7点の中から総合優勝に輝きました。
受賞作は純銅製のヒートシンクで、 52×28×13 mm、重さ64g。
ずらりと並ぶ微細なピンはφ1mm、高さ4㎜。1.15㎜ピッチで合計752本並んでいます。

エレクトロニクス業界における厳しい熱管理ニーズを満たすために開発した、純銅製のコンパクトな浸漬型ヒートシンク。この部品は冷却チャンバーとして機能し、内部の電子部品からの熱を循環冷却液へと伝えます。
製作のきっかけはお客様からのご相談でした。製法がなかなか見つからず、「ピンを1本1本溶接するしかないのか」と途方に暮れられていたところ、当社で鋳造による試作をお引き受けしました。気密性が高く漏れのない筐体を形成するために、無数の微細なピンを備えた複雑形状を加工レスで実現することが課題でした。

樹脂3Dプリンターで作った犠牲型による石膏鋳造と、減圧溶解、加圧鋳造により微細な形状を実現。後加工は単一の統合されたポートを仕上げる程度にとどまり、±0.5 mm以内の高い寸法精度で部品をシームレスに組み立てられます。

今後の活用

この製品は、AIに必要なデータセンターで使用される高性能計算(HPC-Hyper Performance Computing)コンピューターのGPU(AIの心臓部)における、液浸冷却装置の重要部品です。

今回の設計は、小規模サイズでベンチマークテストをする為の実験用テストプローブのため、最終的に目指すサイズよりも小型のものです。この部品で実験が行われ、得られた研究データがAIの今後の発展に寄与していくものと期待されます。

開発者コメント

今回優勝したCTL(キャステムテクノロジーラボラトリーズ)はキャステムグローバルグループの一つ。アメリカ・カリフォルニア州の工場を拠点にロストワックス精密鋳造とMIM(金属粉末射出成形)部品の試作、3Dスキャンによるデータ販売を行っています。

CTLを代表し、岡本上席課長に開発の苦労や受賞の受け止めを聞きました。

岡本上席課長:

開発当初は湯流れ(溶解した金属が鋳型内へスムーズに充填されるかどうか)がどうなるかを気にしていましたが、石膏のような耐火材を流し固めて鋳型を作る「ブロックモールド法」と、減圧溶解・加圧鋳造を組み合わせることで案外スムーズにクリアできました。

一方で、素材の異常なほどに早い凝固に悩まされました。この部品は無酸素銅を雰囲気溶解し製造しているのですが、鋳造品としてはかなり純度の高い材質だったからです。

当初は「良品率10%程度」というマグレでしか良品が取れないような状況。苦しみながら、試行錯誤を繰り返しました。一瞬のタイミングで起こる凝固でも辛うじて一方向性を確保出来る様に、テーパー形状を取り入れた方案の再構築など、鋳造の基本に立ち返りながら改善を重ね、ようやく製造法を確立できました。

また、柔らかい材料と繊細な形状を併せ持つため、脱型には細心の注意を払いました。型からの取り出しは手作業が必要。CTLメンバー総出で取り組む毎日は、まさに発掘作業の様な日々でした。

今回のICI鋳造コンテストでは航空宇宙分野を始めとしたハイテク鋳造部品が並ぶ中、当社の石膏鋳造による純銅製ヒートシンクは珍しい存在として注目を集め、来場者から高い関心を寄せていただきました。

この部品を使用して実験が行われ、得られたデータがAIの今後の発展に寄与していくことを期待しています。

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