PROJECT 特集

キャステムの特許技術の歩み―金属部品から真珠、虫かごまで―

1968年、お菓子工場の一角で鋳造を始めて以来、キャステムは多様な産業分野の金属部品を手がけてきました。
常に「もう半歩」先を目指す姿勢で、技術の研鑽や新たな知見の導入に挑み続けています。

主力であるロストワックス精密鋳造をはじめ、MIM(金属粉末射出成形)、そして3Dプリント技術と鋳造を融合した新鋳造技術「デジタルキャスト」など、次世代のものづくりを見据えた製造手法を確立してきました。

さらに、金属以外の分野にも発想を広げ、プラスチック製の球体形状の虫かご自由な形状の真珠など、これまでにないアイデアを次々と形にしています。
今回は、キャステムが歩んできた革新の歴史と、多様な特許技術を抜粋してご紹介します。※()は登録年

キャステムの技術独立の原点。MIMの米国特許(1991年)

■MIM(金属粉末射出成形)
MIMとは、金属粉末と樹脂を混ぜ合わせ、射出・焼結によって金属部品を製造する技術です。キャステムは国内企業に先駆けて独自にMIMの研究開発を行い、1991年に米国特許を取得しました。

工程は図の通りで、金属粉末と樹脂を混ぜた材料を射出成形して、実寸より15〜20%大きい「成形体」を作ります。その後、脱脂工程で樹脂を取り除き、焼結工程で高温加熱することで、金属粉末が密着して一体化します。このとき部品は全方向に均一に縮む(等方収縮)ため、設計通りの寸法に仕上がり、高精度な金属部品が完成します。

微細で複雑な三次元形状を得意とし、通常の焼結品よりも機械的強度・表面精度に優れた金属成形品を生み出します。鉄・ステンレス・チタンなど多様な金属に対応し、小さなボルトや歯車も加工レスで製造可能です。医療、航空宇宙など、微細で高精度な金属部品が求められる分野で活用されています。
1987年、戸田社長がNASAで開発されたMIMの存在を知ったことから挑戦が始まりました。当時は技術・設備料が高額で、国内導入は困難とされていましたが、自社開発に踏み切り、専門家との交渉を重ねて技術的ヒントを獲得。
1990年に自社工場内にMIMラインを完成させました。

しかし、特許権の問題で営業先が難色を示したことから、「独自に米国特許を取得する」という決断を下し、翌年ついに特許を取得。
キャステムの技術独立を象徴する出来事となりました。

3Dプリント×ロストワックス精密鋳造を実現。金型レス鋳造デジタルキャストの工程(2020年)

熱可塑性を持つ樹脂を用いて3Dモデルを造形し、そのモデルにパラフィン系またはカルナバワックスをコーティングして鋳型を形成、鋳造する技術で特許を取得しています。

この技術により、焼成時の鋳型膨張による割れを防止し、金型なしで滑らかな表面を持つ金属部品の製造が可能となります。

この製法は3Dプリントモデルを基にロストワックス精密鋳造と同様の工程で金属部品を作る「デジタルキャスト」の導入当初に使われていました。

現在は製法の改良が進み、この特許技術の材質とは別のものが実際の製造現場で使われているのですが、
新たな製法の確立に向けて試行錯誤を続け、特許を取得した事例の一つです。

デジタルキャストは、3Dプリントモデルを製品モデルに使うことで金型なしで1個から鋳物を作ることができ、試作・開発段階での形状検証や超小ロットに最適。
デジタル技術を活用した鋳物づくりの可能性を広げています。

デジタルキャスト特設ページ→https://castem-digitalcast.com/

新しい真珠養殖のカタチ。3Dプリントによる自由な形状の真珠造形(2022年)

3Dプリンタで作った樹脂モデルを核にし、カメオやイニシャルをはじめとした自由な形状の真珠を作り出しています。
造形した核を活きた2枚貝の内面に接着し、真珠を巻いた後で核を取り出して内部に樹脂を注入。
完成した真珠を基台に取り付けジュエリーにする特許技術です。
キャステム発のジュエリーブランドKOHKOHでは、この特許技術を生かした唯一無二のジュエリー創作に取り組んでいます。

ブランドの顔の一つになっている《Light》 シリーズは、宝石のスキャンデータを基に、石と同じ大きさの核を造形。そこに真珠層を巻かせ、真珠と宝石をぴったりと組み合わせた作品です。インパクトのある見た目で、海外のお客様からも高評価をいただいています。

KOHKOHオンラインショップ→https://store.kohkoh-jewelry.com/

日常に遊び心を。球体形状の虫かご(2023年)

大ヒット商品となったモンスターボール虫かごシリーズやドラゴンボール虫かご。キャステムではこの球体形状の虫かごの製造法を開発し、特許を取得しています。

プラスチックの射出成形によって作られたこの虫かごは、通気用の網目構造を球体全体に配置しているため、虫が虫かご内のどこにでも止まったり、身を隠したりすることが可能。「虫にやさしい設計」にもなっています。

さらに、通常の直方体の虫かごとは違い球体であるため倒れることがなく、衝撃を分散させるため落としてしまっても壊れにくいという利点があります。
虫かごとしての用途だけではなく、オブジェやお菓子入れとしても使っていただけます。

アイアンファクトリーECサイト→https://www.ironfactory-castem.com/

宇宙を目指す折り紙ヒコーキ「うちゅう扇」(2023年)

戸田社長が折り紙ヒコーキの愛好家であり、室内滞空時間のギネス世界記録保持者であることからキャステムでは折り紙ヒコーキ事業にも取り組んでおり、新たな折り方で特許技術を取得しています。

「うちゅう扇(せん)」と名付けたこの折り紙ヒコーキは、機首を中心に扇のように放射状に広がる形状で、垂直尾翼も備えています。ハサミやクリップを使うことなく四角い1枚の紙を折るだけで作ることができます。
この技術は、インターステラテクノロジズ株式会社と共同で取り組む「宇宙から紙ヒコーキを飛ばす」プロジェクトのために考案されました。直径2㎝の筒に折り紙ヒコーキを収める必要があったため、折りたため、飛ぶときにぱっと開くこの形状が採用されました。
日本古来の扇の形が宇宙空間を滑空する姿が見られるかと思われましたが、2019年の初飛行ではミッション未遂に終わりました。宇宙から折り紙ヒコーキを飛ばす悲願に向け、引き続き挑戦を続けてまいります。
同様の機体は紙ヒコーキ博物館(福山市)に展示しています。

その他の特許技術

ご紹介した特許の他にも、

・スパイク付き運動靴およびその製造方法(2016年)
・ロストワックス精密鋳造による建築物補強装置の製法(2021年)
・金属製品の電鋳による製造方法(同上)
・情報隠蔽板付き郵便物およびその製造方法(同上)など

金属部品製造の枠を超え、キャステムは多彩な特許技術で新たな価値を創造しています。

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詳しい情報は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」にて「キャステム」で検索の上ご覧いただけます。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/